原さんは、独立当初から「相続に重点を置いた税理士」を掲げてきた、当時は異例の税理士。
大多数にとって、相続の相談先は地域の身近な税理士が向いているという想いで、相続業務を中心とする事務所を開いて、10年ほどになります。
企業の会計業務は行わず、相続に関連した業務を中心にしているそうです。

原正長さん

自身の経験から、「ちょっと教えて欲しいんだけど・・・」と、地域の人が気楽に質問できる税理士が、今後もっと必要になると考えました。

原税理士事務所
原正長さん
プロフィール »

税理士として独立するにあたり、相続全般を幅広く学ぶために受講

原さんは、上場企業の本社経理部で決算書類や税務申告書の作成など経理全般に携わると同時に、一個人として大手の資産税専門の税理士法人の顧客だった時代があります。
 
その時に、高度な知識と人員を抱える大手税理士法人なら何事も安心なようにも思えても、多くの人にとっては複雑で難しい提案をする税理士よりも、「ちょっと確認したいんだけど」と気楽に相談できる身近な税理士が求められていることを実感していました。
 
税理士として独立を考えた時、今後、相続はさらに必要とされる分野になるという分析と自身の経験に照らして、「相続専門の税理士」を目指したのだそうです。
 
大手企業の税務の経験は豊富でも、相続については一個人としての経験があるだけなので、相続全般を幅広く学ぶのによいところはないかと探して、出会ったのが相続アドバイザー協議会による講座でした。
 
「今でこそ、いろいろな団体が相続を扱っていますが、当時は多くなかった」と、原さん。
相続を俯瞰する知識が得られればと受講しました。

相続の課題を幅広く捉え、よく考えられた20講座

20講座で1セット(現在は18講座に変更中)。受講した印象は、相続の課題を深くはないが幅広く捉え、よく考えられた講座というもの。
税金だけでなく、法律や不動産など相続に関わる諸々を勉強することができて、基礎知識として役立ちました。
 
当時、相続アドバイザー協議会の副代表だった野口賢次先生(現:評議員)と事務所が近かったことから、20講座終了後は野口先生の勉強会に参加するようになったとのこと。
勉強会の参加者は原さんと同じく講座受講者が多く、相続アドバイザー協議会が掲げる「顧客の立場になって、法律・税務だけでなく、心の問題も合わせて解決する」という想いを共有するさまざまな専門家と交流することができていると言います。
 
野口先生の「相続人の幸せのために」という講義を聞き、塾生の話を聞くことも、自身の立ち位置を改めて考え、知識を深める時間になるのだそう。
 
「相続は税理士だけではできない」と原さん。
不動産の登記や、銀行・証券会社の手続き、不動産の売却など、複数の専門家が協力して完結させることになるので、仲間ができたことが、何より良かったそうです。
 
相続アドバイザーの講座は受け身の知識、実務に当たることで初めて身になり、実務を積み重ねるうちに相談件数も増えていくと、語ってくれました。

各専門家と連携して対応し、実務経験を積み上げていく仕事

相続案件が税理士だけで完結することは、まずなく、最も多いのが司法書士との連携。
相続人が複数の場合もあり、ケースバイケースでたくさんの人が関わることになります。
 
相続税は10か月以内に申告し、納付まで終わらせることが基本です。
相続案件の依頼を受けた段階で、税理士が最初にすることは財産と税金の概算を出すことだと、原さん。
 
手元の預金で税金が払える場合は、すぐにも納付できるので良いですが、お金が足りない場合には、不動産売却の必要に迫られるケースもあるのだそう。
 
不動産の売却では、今ある土地を全部ではなく、一部売却するというケースもあり、土地の測量をする必要が出てくれば、土地家屋調査士に声を掛けます。
遺産分割後でないと、不動産を動かせない場合は、同時に司法書士も動きます。
不動産業者に頼める人がいない場合は、不動産業者も紹介。迅速な対応が大切で、誰かがリーダーシップをとる必要が出てくるのが相続の実務です。
 
税理士は、財産の話を聞く立場にあるため、「遺言の相談がある」などと、声がかかることが多いそう。
税理士だけで話を聞き、公証役場との調整役をして遺言を作ることもできますが、初めから法律の専門家に一緒に動いてもらう方が、実際に相続の段階になったときにもスムーズで、依頼者のためになることを、実務経験を積み重ねる中で実感したと、原さん。
税理士&相続アドバイザーの立場で、関連する専門家に早めに声をかけ、期限内に相続手続きが完了するように動いているとのことです。

相談ケース1:無料相談会が数年後の仕事に

開業後は、地域の弁護士、司法書士、不動産会社とグループで、地域の人向けの無料相談会を開催していた時期があったと原さん。
数年経って、受講者の奥様から連絡を受けるということがあったそうです。
受講者が亡くなり、机を整理した際に「自分に何かあった時には、この人に連絡を」とメモが残されていたのです、
無料相談を真剣に聞き、信頼してくれていたことがわかって、感慨深かったと語ってくれました。

相続アドバイスの基本は、残された相続人のためになるように考えること。それぞれの専門の立場で、話を聞き、アドバイスをする場面があります。
「税金や法律だけでなく、もう少し幅広く見て、どの道が相続人のためになるかを考えることが一番大切なことだと思う」と、原さん。
 
悩ましいのは、「節税するにはどうしたらいいか?」に相続人の興味が集中しがちなこと。
税理士としては、それぞれの選択肢が税金に与える影響を伝えないわけにはいかず、その話を聞いた一部の相続人が、税金が少なくなる方法を優先することで、相続がぎくしゃくしてしまうということも起きるのだそうです。
 
例えば、当初、父親が亡くなった際には、母親にすべてを相続してもらい、安心して暮らしてほしいと決めていた家族がいました。
ところが、税務知識として、「次の相続(母親の時)まで考えた場合、今回の相続(父親の時)で、子どもも一部を相続する方が、このくらい税金が少なくて済みます」と伝えたところ、子どもたちが翻意。母親の安心よりも、節税を優先して財産を分割することにしてしまったということも。
 
また節税を優先すると、もらうものが少なくなる人、多くを得られる人が出て、それまで円満だった関係がおかしくなるというケースも見てきたとのこと。
 
相続人にとって本当に良いと思うことを、どう伝えるかは、常に課題だと感じているそうです。

原 正長さん

原税理士事務所
http://www.haratax.jp/

大学卒業後、伊勢丹に入社、本社経理部で10年間にわたり有価証券報告書などの決算書類の作成、税務申告書の作成、税務調査の対応など、上場企業の経理全般に関して経験を積む。退職後、大手税理士法人をはじめ大小の事務所で一般企業の税務関連業務、相続税の申告などの資産税業務を担当する。平成20年(2008年)に川崎市中原区で相続・贈与・譲渡など資産税に重点を置いた税理士事務所を開設する。