相続を契機に兄弟や家族が決裂するケースを目にしてきた神谷直さんは、司法書士として独立する際に、縁をつなぐことのできる司法書士を目指そうと考えました。
相続アドバイザー協議会を受講し、さまざまな専門家と勉強会を通して連携。
弁護士・税理士とともに、一般社団法人神奈川相続支援ネットワークも立ち上げるなど連携を強化しながら、「相続の窓口」としてよろず相続相談に当たっています。
「相続は仕事になるのか?」を聞きました。

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煩雑な仕事になるケースも多いので、面倒なことが嫌いな司法書士には向かないです。

神谷司法書士事務所 司法書士
神谷 直さん
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相続を専門にしようと思ったきっかけ

司法書士にとって相続がキャッシュポイントになるのは登記の際。
実際、神谷さんが10年修業した司法書士事務所では、相続にあたっての不動産の名義変更など、登記だけを行っていたそうです。
 
ある時、不動産の売買を担当していた神谷さんが、銀行での手続きに出向くと、そこには3人の売主がひと言も口を開くことなく座っていました。
どうも様子が変だと書類を見てみると、3人は兄弟で、親から相続した不動産を売却し、現金にして分けるための手続きを行っていることがわかりました。
1時間少々の間、話をするのは私と不動産業者だけ。まとまった現金を手にしてもギスギスした雰囲気で、手続きが終わると、3人はバラバラに立ち去りました。
神谷さんが、一人に声をかけると、帰ってきたのは「あいつらとは二度と会いたくない」という捨て台詞。相続を契機に兄弟仲は完全に壊れていました。
 
不動産を親から3人兄弟に名義変更をした司法書士は、家族の事情に配慮することなく、等分に名義を変更して業務を終えたことがわかりました。
神谷さんは、もう一歩踏み込んで、幸せな相続を手伝う余地があったのではと感じたそうです。
 
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そんな体験から、神谷さんが目指したのは相続を専門とする司法書士。
独立開業を果たすと、相続の知識を深める必要があると考え、何冊もの本を繰っていて相続アドバイザー協議会に出会いました。
 
相続アドバイザー協議会の考え方は、神谷さんが漠然と目指していた幸せな相続そのもの。
講座や勉強会を通して、不動産業者、保険業者、弁護士、税理士など、同じ志を持つ専門家と知り合い、連携することもできる場でした。
 
神谷さんのスタンスは、必要のない手続きはせず、困っている人、トラブルになる可能性のある人の役に立つというもの。
成年後見、任意後見契約、家族信託、公正証書遺言など、手続きしておいたほうがよいケースもありますが、お金をかけて対策をする必要がないケースもあります。その都度、家族で話し合えばこと足りるケースもあるということです。
必要なサービスは提供し、不要な場合は無料相談で終わるというスタンスを大切にしているそうです。

それぞれの専門家と連携できる体制

神谷さんは、独立当初に相続アドバイザー協議会の講座を受講したあと、3〜4年過ぎた頃に二度目の受講をしたそうです。
目的は主に仲間づくり。1回目は全国的な繋がりができたので、2回目は活動エリアの近い人との出会いを求めてのこと。その人たちと積極的に勉強会も開催して、関係性を深めています。
 
独立から10年、「相続で儲けてやろうという意識では失敗する」と言う神谷さんですが、事務所全体に占める相続の仕事の割合は約7割。相談件数も仕事も年々増えていて、業績は順調です。
 
ちなみに、相続を専門家に相談しておくとよいのは、次のようなケースとのこと。

◉音信不通の家族がいる場合。
接点が持てていないため、穏やかに暮らしているのか、借金があるのかなど、生活状況もわからないことが問題に。

◉高齢者の独居死などで、同じく高齢になっている兄弟が相続人の場合。
生活実態や投資の有無などがわからないと、相続してよいものかどうかの判断が難しく、調査もできない。

◉相続人の関係性が悪い場合。
揉め事にまで至っていれば弁護士に相談が必要。

◉相続財産が少なく、把握しにくい場合。
手続きは煩雑で、相談者に支払うお金もないという事態にも。
 
相談の内容はさまざまあり、愛人と暮らしていて、老後は愛人にみてもらう心づもりでいたが、愛人が先に亡くなり、本人は高齢となって、ヘルパーさんから相談を受けると言ったケースもあるそう。

よろず相談承りの「相続の窓口」として活動

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相続に関わる課題は、財産の引き継ぎだけではありません。
残された家族の生活など、その後の心配がある人もいるので、神谷さんは「相続の窓口」として、お困りごとのすべてを聞き出し、それぞれの専門家へ繋ぎ、専門家同士も連携してコトに当たるという活動をしています。
 
相談に来ている当人は、「そうそう、そこが知りたかった」となることも多く、ある意味、お節介精神が必要なのだとか。
 
「煩雑な仕事になるケースも多いので、面倒なことが嫌いな司法書士には向かない」と神谷さん。
そして、当然、司法書士ひとりでやろうとすることにも無理があると言います。

対応事例1:土地家屋調査士・不動産業者・司法書士・税理士で連携

相談内容は、不動産を相続したが、今後の生活を再建する必要があり、どうしたらよいかわからないというもの。
土地はあるが、預金はほとんどないので、土地を売らなければならないというケースです。
相続アドバイザー協議会で繋がりのある土地家屋調査士に測量を、売買に不動産業者を手配。依頼者次第で、税理士にも入ってもらい対処します。

対応事例2:会社経営者の承継

経営者から後継者への相続で相談を受けた件。
会社の株式を円滑に次世代に承継することと、社長個人名義の事業用不動産の相続問題でした。
不動産の相続については不動産業者、株の承継については遺言書の作成を神谷さんが、税理士が税金問題を担当し、連携して対処しました。

相続アドバイザー協議会の生命保険を扱う知人は、保険を販売するだけでなく、不動産の名義や相続人についてまで聞き出し、遺言書が必要だと思われる場合は、私に紹介してくれるということもあります。
お金の対策は保険で、不動産や相続は私が対処するのです。

相談者の生活の目処を立てるまで見届けて、仕事は終わると神谷さんは考えています。
10年それぞれの専門家と活動してきたことで、各専門家の動きがわかるようになり、「相続の窓口」としての立ち位置の取り方も見えてきたとのこと。
同じ課題に取り組んでいても、それぞれ見ているポイントが異なります。
専門家同士の互いの理解が深まることで、動きやすくなり、手厚いサービスが可能になることを実感しているそうです。

神谷 直さん

神谷司法書士事務所 司法書士
https://kamiya-office.jp/
10年間、都内の司法書士事務所で働きながら勉強し、2010年、司法書士試験に合格。2011年、司法書士登録をして独立開業。相続で困っている人がいることを見てきたので、相続に特化した司法書士を志す。2021年現在、仕事の7割は相続関係。