相続対策には大きく分けて三つの対策があります。
①遺産分割対策⇒ 遺言で相続紛争を事前に防止し、かつ資産を整理し、分けやすい財産にしておく対策です。相続税納税対策にもリンクしてきます。
②相続税納税対策⇒ 相続開始後10か月以内に相続税を現金で一括納付できるよう納税資金調達の準備をしておく対策です。
③相続税節税対策⇒ 課税価格を下げ相続税を減らす対策です。代表的なものがアパート建築です。
この三つの対策のうち①②と③は性質が違い同じ方向を向いてくれません。時には反対の方向に向かってしまうこともあります。借金による節税対策が裏目に出て、相続税納税に支障をきたしてしまう人も少なくありません。
◎極端ではありますが例を取ってみましょう。
1億円の更地に1億円の借金をして1億円のアパートを建てました。出来上がったアパートは本来1億円の価値があります。ところが相続での評価は半分以下に下がります。債務控除できる借金は1億円のままで下がりません。この差に節税効果が生じます。つまり相続税が減るのは借金ではなくアパートを建てるからです。
◎節税対策としては大成功です。だが、納税対策を怠ったゆえに納税資金が調達できません。しかたなく、アパートを売却することになりました。土地の上にアパートが建ってしまったら、土地と建物は一体(収益還元価格⇒その物件が年間どのくらいの家賃を稼ぐかの利回り)で価格が決まります。売却し残りの借金を精算したら、手元にお金はあまり残らないでしょう。
大局の視野に立ち納税対策を優先し、更地の駐車場にしておけば1億円で売却し、相続税は楽々と納付でき、かつ手元にお金が残ったはずです。節税対策は成功しましたが納税は失敗です。
◎相続税は何とか払えました。複数の相続人でこのアパートを分けることになりました。切って分けるわけにはいきません。持分の共有となります。相続での兄弟の共有(特に収益物件)は、遺産分割の先送りと同じです。後々の不動産の「共憂」となってしまいます。節税対策は成功ですが、遺産分割は失敗です。
このように節税対策と、納税・分割対策は同じ方向を向くとは限りません。大事なことは三つの対策のうち、我が家はどの対策を一番必要としているかを見極め、その対策を優先することです。
銀行やハウスメーカーはそんなこと考えていません。提案してくるのは、ほとんどが節税対策です。ここは安易に口車に乗らず冷静な判断が必要です。相続は森を見ずして木を見てしまうと失敗します。提案者は後の責任など取ってくれません。あくまで相続税節税対策は自己責任であることを忘れてはいけません。