石油業界に見切りをつけ、相続特化の不動産屋を目指し、宅建試験に挑戦したのが平成6年でした。もう20年も前の話です。
世は高齢化から高齢社会に突入し、相続は増え続けています。全ての業種は相続を避けて通ることはできません。苦手だからと避けてしまったら、本来の仕事も逃すことになります。この巨大な相続マーケットを前に不動産業界も認識を変えてきました。
中小不動産業者も相続部門の立ち上げや、相続相談、自社セミナーの開催など、活発な動きを見せています。
相続も一頃昔は税理士や弁護士の独占業務の感があり、不動産業者の参入などありませんでした。まして町の零細不動産屋が相続に特化するなど考えられない時代でした。
当時は勉強するにしても横断的相続講座など皆無です。数少ない相続セミナーを渡り歩き、ひたすら独学で相続を学びました。
実務で一貫して徹してきたのは、兄弟姉妹の縁を切らせないことです。相続が原因で切れた縁は二度とつながることはありません。
相続は奥が深く最後は人の心に行き着きます。心のコンサルティングゆえに実務家には高い人間力が求められます。最近は相続特化から相続徳化へと、さらなる進化を目指しています。
人間は亡くなると必ず相続が開始します。ほとんどの人が初めて経験する出来事です。悲しみに浸る暇もなく、遺産分けの話し合いや各種手続きなど、やらねばならぬことが山積します。
ご近所の奥様(Aさん)が相談に見えました。ながく連れ添ってきたご主人が他界されました。葬儀、49日の法要も終え、そのあとはどこへ何を相談して良いのか分からず、ご自分で戸籍謄本を集めたり、銀行へ行ったりしています。
あれが足りない、これが足りないと言われ、役所と銀行を何度も往復し、切なくて涙が出てきたそうです。
亡きご主人は給油所時代のお客様です。相談にみえたAさんに言葉をかけました。「お任せください。もう大丈夫ですよ。」すぐにパートナーの税理士と司法書士に指示し、相続税の有無、相続人の確定、不動産の名義変更、そしてAさんと銀行を回り、預貯金の取り崩しなど、恩返しのつもりで仕事をさせていただきました。
「もっと早くお願いすればよかった。」安堵の表情をうかべ、つぶやいたAさんの言葉でした。
素人には相続は闇夜の世界でよく見えません。相続のプロは相続人様の提灯となって差し上げることが必要です。
思い起こせば、給油所、PTA、地域など、多くの皆様にお世話になってきました。もし20年前の決断(転業)がなかったら、今の自分はありません。天職に出会えた幸せと、お世話になった皆様へ、相続を通し恩返しができる幸せを感じます。