『三船敏郎演じる製靴会社の常務(権藤金吾)へ誘拐犯人から電話が入ります。犯人は子供を取り違え誘拐してしまいました。
だが、オマエが払えと身代金を要求してきます。権藤に身代金を払う義務はありません。しかし犯人が子供を殺してしまったら……、権藤は道義的責任との葛藤の末に要求を受け入れます。
金の受け渡しには、151系特急こだまが利用され、受け渡し場所は未定です。犯人から車内電話が入り「酒匂川の鉄橋が過ぎたところで、身代金の入ったカバンを窓から投げ落とせ」と、誰もが想定しなかった方法を指示してきます。』
今から50年前に公開された黒澤明監督の映画「天国と地獄」です。身代金の想定外の受け渡し方法や、受け渡しに使ったカバンを燃やすとピンクの煙がでる仕掛けが作動し、煙突からピンク(白黒だが煙は色つき)の煙が出でくるシーンは衝撃的でした。
権藤は身代金を払ったことで破産します。だが、賛同者を得て小さな会社を立ち上げることができました。犯人には死刑が確定します。最後に権藤と面会した犯人が、自分は地獄、権藤は天国に住む人間だと、呪いを絶叫し映画は終わります。映画を通し人の心の深部をあぶりだしてしまう黒澤作品の凄さを感じます。
相続の世界でも「天国と地獄」は日常茶飯で起こります。原因の多くは、法律を知らなかった、知ろうとしなかったです。
Aさんの妻がなくなりました。ご夫婦には子供がいません。二人とも自分が亡くなれば全財産は妻や夫に渡ると信じて疑いませんでした。ところが妻の兄弟姉妹も相続人になると知ってビックリです。
高齢の兄弟姉妹はすでに亡くなり、甥姪が代襲相続人となります。残されたAさんの生活、遺産のルーツ(夫の功で築かれた)を考えれば、常識ではAさんが相続すべき財産だと思います。
「オジさん僕達はいいですよ」と言ってくれる代襲グループと、権利を主張する代襲グループに分かれています。亡くなった親の教育や育て方がそのまま代襲相続人に表れます。
常識と法律は一致しません。弁護士のところへ相談にいっても「勝てません」の一言でした。私の答えも同じです。法律を楯に代襲相続人に権利を主張されたら裁判で争っても勝てません。
夫が先に逝った場合も深刻です。遺産は自宅と預貯金2000万円とします。夫の兄弟姉妹に権利を主張されたら老後の生活費2000万円(遺産の4分の1)を全部持っていかれてしまいます。
この悲劇を防げる人が一人だけいます。亡くなった妻や夫です。遺言(兄弟は遺留分なし)があれば全財産は夫(妻)に渡ります。
万人平等である法律ですが、知ると知らないでは「天国と地獄」になります。身近にいる相続アドバイザ一などの一寸としたアドバイスがあれば、このような悲劇は防ぐことができます。