カテゴリー : 野口レポート

Aさんは腕の良い職人さんです。親会社の倒産で売掛金の回収ができません。資金繰りに行き詰まり、自宅を担保にマチ金(不動産担保ローン)から融資を受けました。が、景気の低迷で返済ができず、かろうじて徳俵に足がかかっている状態です。それも限界となり私のところへ相談に見えました。

働き者のAさんの節くれだった指を見て、力になってあげたいと思いました。が、相手はマチ金です。自分の手には負えません。

この思いをNさんに伝え、サポートをお願いしました。マチ金の対応をNさんが一手に引き受けてくれました。差し押さえられる前に任意売却し、Aさんに再起の糧を残すことができました。

売却したのは、一生懸命に働いて手に入れた念願のマイホームです。Aさんはよほど無念であったのでしょう。売買契約書の署名に思わず力が入り、名前の跡がへこみとなり今も机に残っています。

Nさんの仕事はいつも神がかっていました。「見えない力が働いた」と、本人がよく言っていたのを思い出します。Nさんに借金地獄から救われ、人生を取り戻した人は少なくありません。

最初の出会いは私が講師を務めていた相続アドバイザー養成講座です。受講生のなかでも気になる人の一人でした。当時は不動産業の他に金融業もやっていました。縁あって野口塾へ誘いました。

研修後、そば屋の奥座敷で借りる人の心理や取り立ての様子など、生々しい話を聞き、この話は商品(講座)になると直感しました。

相続アドバイザー養成講座に「借金と相続」をテーマに、N講師が誕生するには時間はかかりませんでした。明確な法的根拠に加えリアルな借金現場の実情と心の部分など、聴く受講者に感動を与え、あっという間に看板講座になりました。

何度か一緒に債務者救済をしました。相談者を救えたのは、貸す側の手の内を知り尽くしているNさんがいたからできた仕事です。借金地獄から人生を取り戻すことができた人にとって、正に「地獄で会った仏様」のような存在であったと思います。

だが、14年前に余命(末期ガン)を告げられ、半年後の彼岸に亡くなりました。借金相続の専門家として世に必要な人であったのに残念です。享年62歳、最期は全てを受け容れ、凛として旅立って行きました。彼岸がくるとNさんを思い出します。

先日、野口塾移動例会のあと、塾生とお墓参りにいってきました。お墓は新たに建立されており、立派な石碑が立っていました。奥様も昨年亡くなったとみえ、名前が刻まれていました。今頃は久しく再会した奥様と雲の上から塾生を見守ってくれていると思います。

この野口レポートも平成8年から書きはじめ30年となりました。続けてこられたのは読者様のおかげです。相続のリアルを書き続け、たどり着いたところは人間としての生き方でした。30年の節目のレポートがNさんの供養になれば幸いです。 合掌