カテゴリー : 野口レポート

タレントで女優の磯野貴理子さんが、小学生時代の社会見学の様子をエッセーに書いています。

訪問先のゴミ処理場見学に先立ち、先生から注意がありました。「皆さん、静かに見学しましょう。汚くても臭くても決して臭いなどと言ってはいけません。」当時のゴミ処理場のことです。現場に入ったら臭いのは当たり前です。

そこへ、通りかかった処理場のおじさんが声をかけてくれました。

「どうや、臭くてたまらんやろ?」子供達は一斉に臭くないといいました。「こんなに臭いのに、おまえらの鼻アホとちゃうか!」と言って、おじさんは行ってしまいました。それ以来、磯野さんは自分に正直に生きようと心に決めたそうです。

もう25年も前の話になります。中学校の同級生Ⅰ君が甥の結婚式に上京してきました。バスの運転手になるとの夢を捨てきれず、郷里の秋田に帰り、地元バス会社の運転手を勤めています。

結婚式が終わった翌日に私のオフィスを訪ねてきてくれました。久々の再会です。言葉もすっかりナマっていました。久しく会う同級生との再会はうれしいもので、環境の違いや年月など瞬時にふっとび当時に戻り昔話に夢中です。

その夜、恩師と数人の同級生を呼び彼と酒杯を交わしました。昔は控えめだった彼が東北弁で語ってくれました。

「俺もな、ズブン(自分)で出けることをズブンなりに一生懸命正直にやってけてな、家も持てたす、子供達も独立し、銭さも少し余裕ができただ、だから勘定は俺にもたせてけろ。おがげさんでな、俺もこなして銭払えるようになったんだべえ、ありがてえことだ。」

誘ったのにご馳走になってしまいました。経済的に大きな余裕はないと思うが、心は金持ちなんだな~。お腹も出て頭も薄くなっていますが、自信に満ちた姿はとってもカッコよく見えました。

中学時代から目的を持ち、人に迷惑もかけず、見栄もはらず、正直に生きている彼の姿から多くを学ばせていただきました。朴訥と語る話を聞いていて、東北弁とは何と美しい日本語であるかと、初めて気がつきました。

職業に上下はありません。どんな職業でも世の中に必要あってあるのです。私は相続の実務家として、彼はバスの運転手として、自分の道を堂々と真っすぐに歩んでいく、分野は違っても気持ちは同じです。背伸びせず、見栄もはらず、裏表もなく、自分の能力の範囲で「正直に生きる」こんな楽ちんな生き方はありません。

この歳になると、これまでの人生が姿に表れます。正直に生きてきて本当によかったと思います。今日までの自分の生き様に、一片のくもりも悔いもありません。そして残りの人生に迷いはありません。清々しい気持ちで迎える傘寿に感謝です。