相続の実務でいつも心がけていることがあります。一度「法律と財産を頭から外し、相続人の幸せを心から考えてみる」ことです。
すると本質が見え目的がはっきりしてきます。
以前扱った案件です。知人の紹介でAさんが相談に見えました。Aさんは45歳独身の女性で父親と同居しています。
父親が亡くなりました。遺産は30坪ほどの自宅土地建物です。相続人は母親とAさんの2人です。母親は認知症で施設に入っています。10か月以内に相続手続きをしなければならないと言われ、どこへ誰に相談したらよいのか分からず、毎日悩んでいたそうです。遺産分割に法律上の期限や時効はありません。Aさんは相続税の申告と相続手続きを混同していると思われます。
多くの相談者は自分の目的が分かっていません。話を十分傾聴しこの問題の本質がどこにあるのかをつかみます。Aさんの目的は相続の手続きではなく、自宅に住み続けられることだと分かりました。遺産も相続税基礎控除以下なので申告の必要はありません。
相続問題の本質が分かれば方向が決まり、何をすればよいのか何をしなければならないかが明確になります。
Aさんの目的は、「この家に住み続ける」ことです。私の答えは「このまま何もしないで放っておきましょう」でした。
母親には意思能力がありません。法律は成年後見人をつけた遺産分割を求めています。母親を成年被後見人にしてしまうと、母親の財布は家族の手から離れ何をするにも後見人です。そして一度成年被後見人にしてしまうと生涯外すことができません。職業後見人を頼めば、報酬を払い続けなければなりません。
何もしなければ父親の遺産は、母親とAさんの遺産未分割共有状態になります。が、Aさんが自宅に住み続ける分には何の支障もありません。何もしなくても目的は十分達成できるのです。
いずれ母親が亡くなれば相続人はAさん1人です。ここで父親と母親の相続手続きを一緒にし、自宅の名義を自分に移せば済むことです。このアドバイスでAさんは安どの表情で帰られました。
318号で紹介した地主の息子に嫁いだBさんにしてもしかりです。法律と財産を頭から外し、相続人の幸せは何かと心から考えた時「財産でなく自分の幸せを取りましょう」この答えが出てきます。法律と財産が頭のなかに残っているうちは本質は見えてきません。
相続アドバイザーは目的(本質)をつかみ、相続人を幸せの道へ案内する相続の実務家です。
今まで多くの相続にかかわってきました。相続は幸せになってナンボです。私の相続に対する思いはたったひとつ「残されたすべての人を幸せにする相続」であってほしいのです。
この目的は微塵もブレたことはありません。明確な目的をもって、残りの人生を生きている自分に幸せを感じます。