カテゴリー : 野口レポート

Aさんから相談を受けました。30年以上も音信がなく行方不明だった兄が、地方の工事現場の宿舎で孤独死し、警察から連絡がありました。いくら行方不明だったとはいえ血のつながった兄弟です。現地で供養しお骨を持って帰ってきました。

ここまではよかったのですが、しばらくしてから、兄の友人であるとか、仕事仲間であるとか、わけの分からない人達から、お金を貸してあるから返してほしい、売掛金があるから払ってほしいなど連日電話が入り、奥さんも精神的にまいっています。

兄は独身で子供もおりません。両親など直系尊属もすでに他界しているので、第3順位の相続となり、相続人は弟であるAさんと三男の2人になります。相続人は全ての権利と義務を承継します。

状況からすると他にも隠れた借金や債務がある可能性があります。

マチ金などプロの金貸しは、相続放棄ができる3ケ月以内は請求してきません。このままでは幸せだった家庭が揺らぎます。司法書士につなぎ2人の相続放棄を家庭裁判所に申述し受理されました。

俺は「財産いらないよ」と、遺産分割協議書に署名押印をして、相続を放棄したと思っている人がいます。これはゼロの財産を相続したことになり、相続人の地位は残ります。借金や保証債務があれば法定相続分で相続してしまうので注意が必要です。

 借金や連帯保証などの債務は法定相続分で相続するのが原則です。被相続人が借金3,000万円(アパートの借入)と、知人の3,000万円の連帯保証人になっていて、子ども3人が相続人ならば、1人につき1,000万円の借金と、1,000万円の連帯保証を引き継ぎます。ただし銀行が特定の相続人(アパートを相続した人)が、単独でこの借金を引き継ぐ「免責的債務引受」を承諾してくれたなら、借金は他の相続人に及びません。

 相続放棄は相続人であると知った時から3ケ月以内(期間伸長の手続きで伸ばすこともできる)に家庭裁判所に申述し受理され初めて成立します。また一度受理されたら取り消せません。 

被相続人の財産に手をつけてしまったら相続放棄はできません。また生前に相続放棄すると約定を交わし、関係者全員が実印を押印し印鑑証明を添付していても生前の相続放棄は無効です。

 夫婦は離婚することで元夫や元妻の相続人にはなりません。養子も離縁することで相続人になりません。が、血のつながる実子は縁が切れません。夫の借金やギャンブルが原因で、子連れで離婚した妻も相続放棄の知識は知っておく必要があるでしょう。

 相続放棄し相続人不存在になったからと言って、それで終わりとは限りません。状況によっては放棄した財産に不動産などがあれば、従前と同じ管理責任が残ります。国庫に帰属させるにはそれなりの手続きと費用がかかります。財産構成にもよりますが放棄を考えているならば、専門家と協議することが必要です。