カテゴリー : 野口レポート

この時期になると御中元が届きます。「いい人に出会いました」「助かりました」「ありがとうございます」と、お客様に心から感謝され頂戴する。これが相続実務での中元歳暮です。

毎年Aさんから中元歳暮が届きます。都度礼状は出しますが、名前に覚えがありません、もう15年も続いています。念のため15年前の相談票をチェックしてみました。

Aさんの名前がありました。奥様が私のセミナーを聴いて相談に見えたとあります。銀行筋から相続税節税対策として賃貸マンションの建築を提案され、ご主人は乗り気になっているとのことです。

駅からバス便で15分のところです。手持ち資金はありません。35年返済の全額借入です。賃貸経営は、1に立地、2に立地、そして大家でなく経営者としての感覚を持つことです。

どう考えても立地が悪い、実行してしまったら多額の借金が残った「負動産」を子が相続することになります。

近隣の賃貸市場をわかりやすく説明し、冷静期間をおくことをアドバイスしました。当初から不安を抱いていた奥様ですが、私の話を聞いて断る決心をし、ご主人を説得し事なきを得ました。

このアドバイスのおかげで「家族が救われた」との思いと、日増しに募る「感謝の気持ち」が毎年届く中元歳暮だったのです。

 ここで誤解をしないでほしいのは、「借金して賃貸建物を建てるな」と言っているのではありません。土地の有効活用は必要です。大事なことは身の丈にあった借金やプランのもと、確実なキャシュフロー(手取り)を見据えた土地活用です。

ある相談を受けました。某筋から節税対策になるからと、古アパートを取りこわし、賃貸マンションの建築を提案されています。

規模と建築費との効率や、資金があるとはいえ、借金の額に不安があります。また将来の相続で共有になる可能性があります。

次の提案をしました。 ①アパートの敷地を4宅地に分筆する(土地の相続税評価が下がる) ②戸建て賃貸住宅を4棟建てる(建築費が安くメンテナンスの負担も少ない) ③各棟が独立している(遺産分割がしやすい) ④身の丈に合った借金である(返済が早く終わる)

借金の抜けた物件は「カネのなる木」になります。手元には現金が残り、納税資金や遺産分割の原資になるでしょう。

土地の有効活用は必要です。しかし、安易な節税対策での借金や土地活用に、自分や子供達の大切な人生が振り回されてしまったら本末転倒です。一番大切なことは、その人の人生そのものです。その人生に役立つ対策であってこそはじめて意味があります。

相続にしてもしかりです。たとえ少なくとも頂いた財産に感謝し、自分の人生観や価値観にもとづき心にゆとりある人生を楽しみ、そのすがた(相)を次の世代に伝(続)えていく、こうした考え方こそが本来の相続の姿ではないでしょうか。