カテゴリー : 野口レポート

財産に人の心と欲が複雑に絡んでくる相続は、どうしてもドロドロとしてきます。多くの相続現場を歩いてきましたが、素足でヘドロのなかを歩くようなこともありました。

 

「明るく 楽しく すがすがしく」そんな相続あるわけないだろう!とお思いでしょうが、実はそんな相続もあることを知ってください。二つの相続案件をご紹介したいと思います。

 

《その1》A家の相続です。父親はすでに他界しており、次男夫婦が母親の世話をし、最後を看取りました。2次相続の遺産は全て預貯金です。相続人は兄弟姉妹が5人です。

 

墓守をしている次男から「遺産は取りあえず自分が相続し、母親の供養に使いたい」との提案がありました。5人で分けてしまえば1人当たりはそんな大きなお金にはなりません。

 

他の兄弟姉妹に異議は無く全員が次男の提案を受け入れました。最初の法要は49日です。次は1周忌そして3回忌と続きます。
法要に出席する兄弟姉妹(相続人)は、交通費、宿泊費、飲み食いの費用は一切負担する必要はありません。次男が相続でストックしている遺産から出します。この時ばかりは、子、孫、曾孫まで全員が集まります。

 

法要後はお寿司屋さんで食べ放題で飲み放題です。曾孫も大はしゃぎ、まるでお祭りのように盛り上がります。故人もこの様子を雲の上からよろこんで見ていることでしょう。

 

全員が次の法要を楽しみに待っています。そして遺産を使い切ったなら通常に戻り、実質の「遺産分割」は終了します。まさに「明るく楽しい」相続ではありませんか。

 

《その2》次はB家の相続です。こちらも2次相続での母親の遺産分割の話です。母親(配偶者)は1次相続でそれなりの預貯金を相続しています。相続人は兄弟姉妹が4人です。

 

先ず長男が口火を切りました。「自分は父親の相続でそれなりに遺産を相続したので、今回は法律通りに均分で分けよう。」
それに対し次男が反論します。「均分はおかしい、兄貴は長男なので自分達より多く相続してほしい。」結局ほど良いバランスで決着し、話し合いはわずか30分で終了しました。

 

遺産分割の後に、相続人の皆様にお話しをさせていただきました。「ご両親は皆様を“感謝の気持ちと譲る心”を持った人間に育ててくれました。私は生前にお会いしたことはありませんが、きっと素晴らしい方だったと思います。これは何にも勝る無形の相続財産ですよ。」思わず口から出てきた言葉です。

 
親の影響力が無くなる2次相続は揉めることが多いです。だが、この様に感動する相続もあります。遺産分割が無事終了したことを仏前に報告し、すがすがしさのなかB家を後にしました。