カテゴリー : 野口レポート

日本の相続制度は昭和22年5月2日以前までは、戸主の死亡により長男が一切の財産を相続する家督相続制度でした。また、戸主の隠居で生前に相続が開始する隠居制度もありました。

 

昭和22年5月3日~昭和22年12月31日までの応急処置法(家督相続廃止)をはさみ、昭和23年1月1日より新民法が施行され、子が複数いれば同等で分ける均分相続となりました。
そして、昭和37年の改正、昭和55年の改正を経て現在に至ります。直近では非嫡出子の相続分が嫡出子と同等の相続分となったことは周知の通りです。

 

相続は相続開始時の法律が遡って適用されます。昭和22年4月に亡くなった曾祖父(ひいおじいちゃん)の手続きをしていませんでした。土地の名義は曾祖父のままです。このような場合は曾祖父に子が何人いようが、家督相続が適用され長男(祖父)が1人でその土地を相続することになります。

 

新民法の下、新たな相続制度が適用され67年が経過しました。今や均分相続は国民の意識のなかに定着した感があります。義務を果たさない人ほど権利意識が強く、「法定相続分」という言葉があたりまえに出てくるようになりました。

 

「均分相続」は「平等相続」です。決して「公平相続」ではありません。お正月のお年玉を、高校生・中学生・小学生に一律1万円を渡せば平等です。そんな親はいないでしょう。1万円・5千円・3千円と、歳に相応した金額が入っています。これが公平です。

 

長男夫婦が同居の母をみとり父の介護をし、家業の板金屋を手伝っています。姉はすでに嫁ぎ弟は独立し家をかまえています。
父親が亡くなりました。遺産は作業場兼居宅です。2人が均分相続を主張したら、長男は代償金を払わなければなりません。調達できなければ、家を売りカネに変えて3分の1で分けろと言われます。事業承継は吹っ飛び、長男は仕事と住むところを失います。
裁判をしても判決は法律(法定相続分)通りです。裁判官は法定相続分を変えることはできません。民法は寄与分制度を設けていますが親の介護や、家業の手伝いが寄与分として長男の相続分に反映することはほとんどありません。下の世話など、一番苦労したお嫁さんは相続人ではないので、寄与分の適用はありません。

 

素人の長男にはこんなこと予測できません。相続が開始しまさかの展開です。こんな悲劇を防ぐためにも、生前に遺言で長男の相続分を増やし、平等を不平等(公平)にしておく必要があります。
均分相続は平等相続です。相続が開始してからでは何もできません。このまま相続に突入したらどうなるのか、平等のなかに不平等(遺言)を持ち込んでおく必要があるのか、均分は平等であると心得、適切な対応をしておくことが大切です。