お客様の紹介でAさん(老婦人)が相談にみえました。30数年前に父親が亡くなり、まだ相続手続きをしていません。遺産である40坪の自宅土地は亡くなった父親名義のままです。名義を変えてほしいとの相談です。相続人は妹さんが一人とのことでした。妹さんからは姉が自宅を相続する同意を得ているとのことでした。
司法書士をコーディネートして相続登記をすれば済む問題と思われました。話を傾聴していくと、ご主人と離婚をしていること、父親の土地の上にある建物は、Aさんと別れたご主人の共有名義になっていること、二人の子供はそれぞれ事情があり、Aさんの面倒を見るのは難しいことが分かりました。
この相続相談の本質は何か、高齢で一人暮らしのAさんに一番必要なのは何かを考えました。Aさんが老後に頼りになるのはお金です。この相談の本質が見えてきました。
Aさんは相続した土地を将来売却換金し、老人ホームなどの福祉費用にあてる必要があります。だが、問題は建物が別れたご主人との共有名義であることです。土地を円滑に売るためには建物の持分を元ご主人から買うか贈与を受けるかして、Aさんの単独名義にしておく必要があります。
築年数の経過した木造建物で、固定資産税評価額は低く、さらに持分は2分の1なので贈与税の負担は生じません。
別れた元ご主人に会いにいきました。一人暮らしのAさんの諸事情を丁寧に説明し贈与のお願いをしました。元ご主人も事情を理解してくださり贈与契約書にハンコを押してくれました。
これでAさんは相続した土地をいつでも換金し、老人ホームの費用に当てることができます。売却の際は私が仲介することを約束し一件落着です。Aさんからは「神様だよ」と言われました。
あるラジオの相続番組に出演させていただきました。57年間疎遠になっていた異父姉妹を、相続を通し姉妹の縁を復活して差し上げた案件。70年間シコリになっていた兄弟の怨み辛みを断ち切らせた案件。遺言を放棄していただき、遺留分減殺請求を防ぎ兄弟の縁を切らせなかった案件。
これらの話を聞いたパーソナリティーから「野口さんはおせっかいおじさんですね」と言われました。自分では意識してなかったのですが、言われてみればその通りかもしれません。
コーヒーのなかに入るクリープはほんの一滴入っただけで味がまろやかになります。大きなおせっかいは余計なおせっかいになります。だが、単にビジネスだけで終わらせない、ほんの少しのおせっかいは相続をまろやかにし、相続人様を幸せの道へ案内することができるのです。お客様の人生にほんの半歩踏み込んだ小さなおせっかいは、まさにコーヒーの中に入るクリープです。