カテゴリー : 野口レポート

水面を泳いでいるカモを見るとスイスイと優雅です。ところが目に見えない水面下では絶えず脚を動かしています。

地主さんからセカンドオピニオンとして相談を受けました。被相続人には先妻との間に子がいます。相続でもめぬよう、公正証書遺言を作ってありました。税理士が関わっているので法的不備はありません。だが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。もし、遺言を執行してしまったら遺留分の請求をしてくるでしょう。

また、不動産の特性を考慮していません。遺産のなかに一区画の土地があります。利用の現状と筆が異なっており、遺言(筆)通りに分割してしまうと、多くの土地が隣接地に越境したり、接道も満たせず、建築確認を取ることも売却することもできません。

10筆以上ある土地を合筆し一筆に戻し、接道を満たした上で利用の実態に合わせ分筆をします。合筆は所有者が同じでなければできません。遺言で各相続人に登記をしてしまったら、合筆が不可能となり、多くの土地が死んでしまいます。

分割前の未分割共有状態なら、相続人全員のハンコが揃えば、合筆することができます。道も要件を満たし位置指定道路の認定を受ければ、建築基準法の道路とみなされ、建築確認の取得も可能となり売却もでき、全部の土地を生かすことができます。

 士業(税理士・土地家屋調査士・司法書士)とチームを組み、あとは自分を信じてやるしかありません。苦労しましたが、相続人に何度も状況を説明し理解をいただき、遺言を使わず土地を合筆したあと新たに分筆し、遺産分割協議で無事に合意しました。

ホッとする間もなく、相続税が待っています。相続税は10カ月以内に現金一括納付が原則です。確定測量、越境物解消、開発許可要件などを満たし、期限内に土地を換金できるかが勝負です。

この土地をめぐり、不動産ブローカーが寄ってきます。旨いことを言ってきますが、相続人のことなど考えていません。商売にならぬと見るや潮が引くように一斉に去っていきます。

10億20億の土地資産家の、分割協議から相続税一括納付までの作業は、難度が高く心臓外科手術のようなものです。チームには地主の相続に精通した税理士と土地家屋調査士は欠かせません。

遺言を使ってしまえば楽です。だが、遺留分の請求をされてしまった、土地が死んでしまったでは、相続人が不幸になってしまいます。遺言を使わず(相続人全員の承諾が必要)、苦労を承知で、あえて遺産分割の話し合いを選びました。重い相続案件でしたが、専門知識を知恵にかえ、気力と体力を出し切りやり遂げました。

難しい仕事をさりげなくこなすのがプロです。だが、水面下では絶えず脚を動かしています。それはお客様からは見えません。

そんな苦労を支えているのは、やり遂げた達成感と、ブレない信念に加え、相続人を守る実務家としてのプライドです。