カテゴリー : 野口レポート

エボラ出血熱・デング熱などのウイルスは肉眼では見えません。見えないものは不安です。不安が募ると恐怖になります。

今年1月1日より新相続税制がスタートしました。メディアが必要以上に不安をあおっています。ビジネスチャンスとばかり、無料の相続セミナーも盛んに開かれています。なぜ無料なのか、なんの疑問も持たない無防備の人たちでどの会場も満員です。

素人には相続税がいくら課税されるのかわかりません。見えないから不安です。見えたら不安は遠のきます。

仮に遺産が7,000万円で相続人は子が3人とします。改正前は課税なしでした。今年から相続税は約220万円課税されます。

たしかに庶民にとっては「大金」です。しかし、前もってわかれば算段できないお金ではありません。220万円の相続税を減らすために、数千万円の借金をして、二世帯住宅や賃貸併用住宅を建てる必要があるのか、ここを冷静に考えてほしいのです。

外階段で2階は長男夫婦が、1階は両親が住んでいる完全分離型の二世帯住宅は、昨年までは同居とみなされず、相続税小規模宅地の特例(一定要件下、自宅敷地は240㎡までは更地評価から80%引き、今年からは330㎡に拡大)の適用が受けられませんでした。

今では同居とみなし、特例が受けられるようになりました。ここが相続税節税対策として提案してくる理由です。

この対策には落とし穴があります。建築費を親が半分、長男が半分出しました。1階は親の名義にし、2階は子の名義にしました。これを「区分登記」と言います。区分登記をしてしまうと小規模宅地の特例が親の区分割合しか受けられません。

親と子が建物全体を出資割合で「共有登記」にしておけばこの特例を全て受けることができます。登記の仕方で相続税が大きく変わってきます。また、土地は親の名義です。二世帯住宅は将来の相続で同居の子が円滑に取得できるよう、遺言の作成が必要です。

賃貸部分の家賃収入で建築費を返済していく、賃貸併用住宅の提案もさかんに行われています。だが、賃貸併用住宅は生涯空室(自宅)をかかえるということです。全室賃貸でも苦戦する時代です。借金での賃貸経営は素人が考えるほど甘くありません。

銀行は土地と建物を担保に取ります。もし返済ができなくなったなら、容赦なく差し押さえ最後は競売にかけられます。

地主さんのように複数の物件があれば、1棟が赤字でも他の物件で何とか補えます。だが、賃貸併用住宅は1棟です。借金返済に行き詰まったら自宅を失うことになります。本末転倒の相続税対策による悲劇(破綻)は、これから少なからず出てくるでしょう。

提案してくれた人たちは後の責任など取ってくれません。相続税対策は「自己責任」であることを忘れてはいけません。