カテゴリー : 野口レポート

私が住んでいる地域も昭和30年代は田や畑も多く、我が家も父親が役所勤めの傍ら半農を営んでおりました。父親が引くリヤカーを母親と一緒に後押したのが懐かしく思い出されます。
 
田植えから脱穀まで米作りの苦労も一通り経験しました。八十八回の手を煩わし、脱穀してみればわずか数俵です。米の有り難さを子供心に感じたのをおぼえています。
 
昭和30年代後半から、次第に農地が宅地に転用され長屋や貸家に変わっていきました。農家にとって農作物の収入だけでは生活は楽ではありません。貸家経営は貴重な現金収入となりました。
 
だが、土地の所有面積の多い農家にとって固定資産税など税制面で優遇されている農地は捨てがたいものがありました。
ところが平成4年の生産緑地法改正で、三大都市圏の特定市の市街化農地については、「宅地化すべき農地」と「保全すべき農地」とを区分することになり、農家はその選択をせまられました。
 
「保全すべき農地」を選んだなら「生産緑地」の指定を受けることになります。「宅地化すべき農地」を選んだなら、いつでも農地を宅地に転用することができます。売るも貸すも賃貸マンションやアパート建設も可能です。だが、固定資産税は宅地並み課税です。
 
農作物の収益では宅地並みに課税される固定資産税など、とても払いきれません。「宅地化すべき農地」を選んだ農家は土地の売却や有効活用を迫られました。
 
「保全すべき農地」(生産緑地)を選んだ農家は、固定資産税はわずかで済み、相続税納税猶予も選択できます。要件を満たせば「生産緑地」に課税される相続税を納税猶予(免除ではない)するとの制度です。しかし目先の相続税だけに目がいってしまい、安易に受けてしまうと恐ろしい制度です。
 
「生産緑地」は、売れない・貸せない・担保にできない、農業以外は何もできません。もし納税猶予を受けている農業従事者が、高齢で後継者もなく営農が継続できなければ、猶予されていた相続税が相続開始時に遡り、利子税と共に一気に課税されてしまいます。
もう少し、もう少しで30年……。身体にムチ打ち頑張っても猶予されている相続税は免除されません。免除の条件は「生涯営農」です。免除に該当する事由が生じなければ死ぬまで営農です。
 
猶予で先送りしてきた「生産緑地」の相続税は、農業従事者の死亡で初めて免除となり、一定の手続きを経て宅地に転用できます。
「生産緑地」の指定を受けている人は2022年に30年の満期が到来し宅地転用が可能となります。だが、納税猶予を受けている人は要注意です。転用してしまうと猶予が打ち切られてしまいます。
 
今後、宅地化した大量の「生産緑地」が一気に市場に出てきます。既存宅地の価格への大きな影響は避けられないでしょう。